第7回 鮮やかな配色   バックナンバーはこちら >>>
 
 赤と黒の配色以外にも、その鮮やかさにはっとさせられる「色のコントラスト」がある。
 詩誌『ユリイカ』最終期に真鍋博が手がけた表紙は、真鍋お得意の細密なカットとともに、2分割の大胆な配色が目を引く。紅と青、紺と浅黄、茶と朱、ピンクとオレンジ。なかでも1960年9月号の表紙は、ブロンズに輝く2種類のインキが用いられており、贅沢感がある。
 年が代わって1961年になるとデザインは変更になるものの、2色を使うという基本コンセプトは踏襲された。もっとも、この年の2月号で書肆ユリイカ版の雑誌『ユリイカ』は伊達得夫の死により発行が途絶するので、残念ながらこのバリエーションを楽しむことはできなくなる。
 単行本で心に残る色づかいの作品は、まずは柿沼淳『掌の上の展覧会』(1954年)がある。表紙とジャケットは同じ意匠の版画で、岡鹿之助作品のコロタイプ印刷である。同じ岡の作品でも、清岡卓行の豪華本『氷つた焔』(1954年)の繊細な表紙に比べて、こちらはシンプルだが力強い印象を受ける。深緑色のジャケットと優しいレンガ色の表紙が好対照だ。
 山本道子『みどりいろの羊たちと一人』(1960年)の表紙も美しい。渡辺藤一描く渋い色合いのジャケットを外すと、若草色の紙装に明るい青色の箔押しタイトルが現れる。この色にも、そしてまた菊20取判という桝形に近い変形版の、ひらの下方ギリギリの配置にも意表をつかれる。  ジャケットや表紙を開けたときに思いがけない色やデザインが現れる……これは、本を手にした人を楽しませようとする伊達の作為ではないだろうか。
 そういう意味で最も楽しめるのが、堀内幸枝『紫の時間』(1954年)だろう。判型はB6判の規格寸法ながら、天と地があいた筒箱に納められ、本は上(または下)にスライドさせて出し入れする構造になっている。そして紺色の表紙を開けると、真っ黄色の見返しが。光沢のある紙質のため、まるで闇に差し込む太陽光のように目に刺さって衝撃的だ。

 
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『ユリイカ』1960年1月号

『ユリイカ』1960年2月号


『ユリイカ』1960年3月号

『ユリイカ』1960年4月号


『ユリイカ』1960年9月号

『ユリイカ』1960年11月号


『ユリイカ』1960年12月号

『ユリイカ』1961年2月号

 

柿沼淳『掌の上の展覧会』

 

清岡卓行『氷つた焔』

 

山本道子『みどりいろの羊たちと一人』ジャケット

 

山本道子『みどりいろの羊たちと一人』表紙

 

堀内幸枝『紫の時間』
 
バックナンバー
     2005.09.18  第1回 ふたつの『ユリイカ』
     2005.09.26  第2回 『ユリイカ』の表紙絵
     2005.09.28  第3回 有名画家の展覧会
     2005.10.02  第4回 洋書にしか見えないブックデザイン
     2005.10.05  第5回 継ぎ表紙の妙技
     2005.10.05  第6回 赤と黒
     2005.10.05  第7回 鮮やかな配色
     2005.10.16  第8回 切り絵と切り紙文字
     2005.10.26  第9回 たれつきジャケット
     2005.10.31  第10回 細い帯を斜めに掛ける
     2005.10.31  第11回 覆い帙
     2005.11.01  第12回 和風のブックデザイン
     2005.11.04  第13回 渡辺藤一の世界
     2005.11.04  第14回 増刷と異装
     2005.11.05  第15回 全集と双書のデザイン
     2005.11.06  第16回 判型の効果
 

 

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