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第12回 和風のブックデザイン バックナンバーはこちら >>> 前回ご紹介した矢代静一の戯曲『絵姿女房』は、華やかな和風の意匠であった。この連載の第4回目で、洋書と見まごうばかりのブックデザイン作品を紹介したが、伊達得夫の造本はなにも洋書風ばかりとは限らない。『絵姿女房』を見れば明らかなように、和風のデザインも大変うまかった。 『絵姿女房』の本は和紙摺りの本文用紙を麻紐で中綴じにしてある(第11回の図版参照)。小島信一の『凧』(1955年)も、本は『絵姿女房』と同様の麻紐中綴じだ。『凧』は、図版のような青い布装の覆いに納められている。上製本の表紙のような形の覆いだが、「覆い帙」と違って前小口をとめる紐がない。実は本書は、この覆いを被せた本ごと、もう一つ別の函に納める構造なのである。この青い布製の覆いだが、こんな物体も通常の出版物ではまず見られないので、私は苦しまぎれに「覆い表紙」と呼んでいる。 和風といえば、書肆ユリイカが発行していた詩画集の中でも豪華なのが長岡輝子の『詩暦(うたごよみ)』で、たれつきジャケットも本扉も、そして本文中に貼り込まれた木版画も川上澄生の作である。造本は洋装本(上製角背)だが、川上の木版画の効果によって和風の雰囲気が醸し出されている。 もう1冊、上製角背の造本で見事な和風に仕上がっているのが加藤楸邨の句集『山脈(やまなみ)』(1955年)だ。段ボール製の函から本を取り出せば、表紙には楸邨の句を木版摺りした紙が使ってあり、藤色と白の対比がとても美しい。背文字の赤い箔押しも効いている。 何も和紙素材を使わなくとも、和風デザインを作ることはできる。連載第10回に登場した加藤道夫『なよたけ』再版は白い紙表紙に白い帯が斜めに掛かっている造本だったが、実はこの初版はまったく違う形である。ボール紙製の函のひらには桃色の用紙 に御所車のカット(架蔵本は、印刷が色あせてしまったので見づらいが)、そして本は真っ赤な紙表紙に「なよたけ」のタイトル文字だけ。 洋装本でありながら和風の効果をあげているひとつの要素が、この「なよたけ」の平仮名文字書体である。現在のパソコンの文字フォントと比べると、同じ明朝体の平仮名でありながら、形が随分違うことに気づくだろう。昭和のこの時代は、活字書体デザイナーもまだ書道の心得のある人たちばかりで、平仮名書体は特に、こうした筆の流れが感じ取れる形であることが多かった。平成の今、こうした雰囲気を作ろうと思ったら通常の明朝体では駄目で、草書体などに似せた、ことさらに和風を意識して作成した和風フォントでも使わなければ難しいだろう。 |
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バックナンバー
2005.09.18 第1回 ふたつの『ユリイカ』 2005.09.26 第2回 『ユリイカ』の表紙絵 2005.09.28 第3回 有名画家の展覧会 2005.10.02 第4回 洋書にしか見えないブックデザイン 2005.10.05 第5回 継ぎ表紙の妙技 2005.10.05 第6回 赤と黒 2005.10.05 第7回 鮮やかな配色 2005.10.16 第8回 切り絵と切り紙文字 2005.10.26 第9回 たれつきジャケット 2005.10.31 第10回 細い帯を斜めに掛ける 2005.10.31 第11回 覆い帙 2005.11.01 第12回 和風のブックデザイン 2005.11.04 第13回 渡辺藤一の世界 2005.11.04 第14回 増刷と異装 2005.11.05 第15回 全集と双書のデザイン 2005.11.06 第16回 判型の効果
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