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第16回 判型の効果 バックナンバーはこちら >>> 前回ご紹介した「今日の詩人双書」と「海外の詩人双書」は、左右145ミリ・天地165ミリという、桝形に近い変形版である(第15回の図版を参照)。この形はA20取判というサイズになる。全紙からの通常の取り方だと1枚を8分割して両面印刷で16ページ取るところを、10分割の両面印刷で20ページ取った場合の寸法である。 書肆ユリイカの本には、正規寸法でないサイズの判型が非常に多い。「今日の詩人双書」と同じく20取判のものには山本道子『みどりいろの羊たちと一人』(第7回参照)と笠原三津子『雲のポケット』(1960年)があり、これらは菊20取判である。 H氏賞を受賞した吉岡實の『僧侶』(1958年)は天地寸法がやや詰まったA5判変形で、小海永二『峠』『風土』(第11回参照)、串田孫一『旅人の悦び』(第4回参照)、安東次男『死者の書』(1955年)、辻井喬『不確かな朝』(1955年)、小田久郎『一〇枚の地図』(1957年)などはすべてB6判変形である。 寸法が短いということは、その分を裁ち落として処分するわけだし、折り方を代える場合には通常の折の機械ではできない。いずれにせよ正規寸法の製本より手間がかかることになるため、変形版はコスト高につながる。現代の出版物の判型に変形版が少ないのは、経費節減を優先させるからである。その結果、どれも似たような印象の造本になってしまうのだ。 変形版でも、青木ひろたか『無花果の実』(1950年)や堀内幸枝『不思議な時計』(1956年)、井口紀夫『カリプソの島』(1957年)はまた違った雰囲気の形である。 一見して細長い印象を受けるこれらの本は、左右と天地の寸法の比率が約1対1.618という「黄金矩形」に近い形に作られているのだ。この比率をもつ形は古来美しいとされてきた。伊達が「黄金比率」を意識的に再現しようとしたのかどうかまではわからないが、こうした形に仕上げたいとの意図はあったろう。少なくとも、判型が変われば書物を手にする人に異なる印象を与えることができるということは熟知していたはずである。 ――神保町の路地裏、木造2階建ての昭森社ビル。13段の急な階段を上がった2階のわずか10坪ほどの空間で、書肆ユリイカは昭森社、思潮社と同居しながら独自の世界を創出していた。ここで伊達得夫は、13年の年月の間に二百数十冊もの奔放自在な造本表現を展開したのだ。美しい書物を作ることは容易ではなく、四苦八苦する出版社がほとんどだが、書肆ユリイカの本には、そうした背景を感じさせない軽やかさがある。それはひとえに、伊達が書物の美を感覚的に体得していて、絶妙の匙加減で表現することができたからだろう。40年以上経った今でも、その作品である出版物は手にする者を魅了してやまない。 *「書肆ユリイカの本」本編はこれで終了とします。ご愛読いただき、ありがとうございました。なお、このあと引き続き番外編を掲載いたします。 |
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バックナンバー
2005.09.18 第1回 ふたつの『ユリイカ』 2005.09.26 第2回 『ユリイカ』の表紙絵 2005.09.28 第3回 有名画家の展覧会 2005.10.02 第4回 洋書にしか見えないブックデザイン 2005.10.05 第5回 継ぎ表紙の妙技 2005.10.05 第6回 赤と黒 2005.10.05 第7回 鮮やかな配色 2005.10.16 第8回 切り絵と切り紙文字 2005.10.26 第9回 たれつきジャケット 2005.10.31 第10回 細い帯を斜めに掛ける 2005.10.31 第11回 覆い帙 2005.11.01 第12回 和風のブックデザイン 2005.11.04 第13回 渡辺藤一の世界 2005.11.04 第14回 増刷と異装 2005.11.05 第15回 全集と双書のデザイン 2005.11.06 第16回 判型の効果
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