第4回 洋書にしか見えないブックデザイン   バックナンバーはこちら >>>
 
 神保町で仕事をしていた伊達が、昼休みなどに古書店で画集や洋書を好んでチェックしていたという話を前回書いたが、そのせいかどうか、ユリイカ本には洋書めいたブックデザインがとても多い。いや、というよりも、洋書にしか見えないデザインがかなりある。
 たとえば前回紹介した『シュルレアリスム辞典』は、ダリとクレーのジャケットをはずすと山吹色の表紙が出てくるが、ひらと背にはフランス語のタイトルしか書かれていない。同様に、原口統三の『二十歳のエチュード』と『死人覚え書』も、ジャケットを取るとご覧の通り。
 平林敏彦『廃墟』(1951年)や祝算之介『亡霊』(1955年)は洋書「風」にとどまるが、福田正次郎(那珂太郎)『ETUDUS』(1950年)や山口洋子『館と馬車』(1955年)、串田孫一『旅人の悦び』(1955年)の3点は、函も本も、ひらには日本文字が一切ない。これでは書店で平積みや面展示ができないではないか、と心配してしまうほど、商売っけのないデザインである。
『ETUDUS』は限定出版だったし、他の詩集も大抵発行部数は少ないから、それはそれでもよかったのかもしれないが、ここまで書店販売を意識しないつくりはいっそ潔い。
 伊達得夫が書肆ユリイカをおこす前に在籍していた前田出版社で、ヒットした『二十歳のエチュード』元版は、やはりジャケットがフランス語オンリーで、これも伊達の手がけたものだった。よく売れたはずだが、増刷の時にも同じジャケットを使っている。詩集より明らかに発行部数の多い本であっても、このデザイン。だからこそ格好いいと思うのは私のひいき目であろうか。
 ところで、私の持っているユリイカ本で、面白いものが一つある。それは山岸外史の『人間キリスト記』(1949年)で、後ろ見返しを見ると「VITA MACHINICALIS」という欧文のタイトル文字が見える。つまりこれは、書肆ユリイカで1948年に出版された稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス』の表紙紙の余ったものを、この本の表紙紙として再利用したものである。これまた欧文文字のみだ。この2点とも書肆ユリイカの初期の出版物だが、こうした洋書風のデザインがなされたのは、比較的早い頃が多いようだ。
 
 
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『シュルレアリスム辞典』表紙


原口統三『二十歳のエチュード』表紙

原口統三『死人覚え書』表紙


『平林敏彦『廃墟』ジャケット

祝算之介『亡霊』ジャケット

 

福田正次郎(那珂太郎)『ETUDUS』

 

山口洋子『館と馬車』ジャケット
 

山口洋子『館と馬車』表紙

 

串田孫一『旅人の悦び』

 

原口統三『二十歳のエチュード』前田出版社版ジャケット

 

『人間キリスト記』(1949年)後ろ見返し
(稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス』の表紙)

 
バックナンバー
     2005.09.18  第1回 ふたつの『ユリイカ』
     2005.09.26  第2回 『ユリイカ』の表紙絵
     2005.09.28  第3回 有名画家の展覧会
     2005.10.02  第4回 洋書にしか見えないブックデザイン
     2005.10.05  第5回 継ぎ表紙の妙技
     2005.10.05  第6回 赤と黒
     2005.10.05  第7回 鮮やかな配色
     2005.10.16  第8回 切り絵と切り紙文字
     2005.10.26  第9回 たれつきジャケット
     2005.10.31  第10回 細い帯を斜めに掛ける
     2005.10.31  第11回 覆い帙
     2005.11.01  第12回 和風のブックデザイン
     2005.11.04  第13回 渡辺藤一の世界
     2005.11.04  第14回 増刷と異装
     2005.11.05  第15回 全集と双書のデザイン
     2005.11.06  第16回 判型の効果
 

 

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