『ことばのいばしょ』展in札幌SCARTS
選書を担当しました
ことばのいばしょ
2020.07.30
アーティストの瀬尾夏美さんと映像作家の小森はるかさんにお声がけいただき、この夏お二人が参加する展覧会「ことばのいばしょ」の会場に展示する本を火星の庭がセレクトすることになりました。
対話の場を息長く続けて来られているお二人の作品を思い浮かべながら、会場に本による窓をつくるようなイメージで本を選んでいます。
展覧会は札幌で8月22日から一ヶ月開催されます。ほかのアーティストの方々も魅力的でご活躍されている方ばかりです。
出かけることがむずかしい日々ですが、もし行ける方がいらっしゃいましたら、ぜひお立ち寄りください。
https://sapporo-community-plaza.jp/event_placesofwords.html
======以下、瀬尾さんからの言葉です======
8月22日より、札幌のSCARTSという施設で「ことばのいばしょ」という展覧会に参加します。
昨年度制作した「震災後、オリンピック前 東京スーダラ2019」の 再構成+新作映像と、コロナ禍の日々を思考するための公共スペースをつくります。
コロナ禍の日々を思考するための公共スペースでは、仙台を拠点に活動する「建築ダウナーズ」が設計した展示と ワークショップのための什器たちに、book cafe火星の庭さんの選書による「コロなか文庫」と、瀬尾が書き溜めている「コロなか天使日記」が置かれます。どんな場所になるか楽しみです
============引用ここまで============
瀬尾さん、小森さんとの打ち合せを重ねながら選書を進めています。どうぞお楽しみに。
また、瀬尾さんがtwitterにて発表している「コロなか天使日記」について瀬尾さんがテレビ取材を受けており、閉店後の火星の庭にて撮影がありました。
火星の庭の前野久美子も、「コロなか天使日記」と瀬尾さんについてお話ししました。
番組は、2020年8月8日(土)、TBC東北放送テレビ「サタデーウォッチン!」13時半ごろからの特集枠とのことです。
「コロなか文庫ができるまで」
2020.08.14
2020年8月末から約1ヶ月、瀬尾夏美さんと小森はるかさんが参加する展覧会「ことばのいばしょ」展が札幌でひらかれることになり、その会場に本を置きたいので選んでいただけませんかと、小森さんからご依頼いただいた。7月に入ったばかりのことだった。
本を置く会場には、瀬尾さんがツイッターに載せている「コロなか天使日記」をモチーフにした作品が展示されているということで、そういった選書は未経験なものの、作品を発表する場に本を置きたいとお二人が思っていることが単純にうれしく、すぐお引き受けした。
「わたし、本、読まないんですよ」と瀬尾さんはよく言う。 だがそういう瀬尾さんは、日々SNSで積極的に「ことば」を発 信し、アーティスト活動のなかでも対話を重視する場作りと創作をしてきた「ことばのアーティスト」だと思える。さらに『あわいゆくころ ー陸前高田、震災後を生きるー』(晶文社)という著書をもち、編著『立ち上がりの技術01』(野尾久舎)、「二重のまち」「花の寝床」などzineも発行している。アーティストの言葉を額面通りに受け取るものではないと思っているわたしは、瀬尾さんの「本を読まない」という宣言(?)についての真意は保留にしたまま選書をすすめることにした。古本屋という生業上、本は売るほどあるというか、困るほどあることだし。翌日からさっそくお店の本棚、自宅の蔵書、倉庫の本をながめてこれはという本を選んでみた。美術に関する本、思想書など、どちらかというと評価の定まった定番の本が多くなった。
一週間後くらいに「ひとまず選書してみました。見ていただいてもいいですか?」と連絡すると、すぐに瀬尾さんと小森さんがやってきた。机に並べた本を見て、瀬尾さんがまず最初に手に取ったのは、『戦争と私』という、仙台で40年前に出された自費出版の本だった。「こういう本に惹かれるんですよねぇ」と言って、興味深そうに読み始めた。それはなかでももっとも地味な本で、真っ先にそれを選ぶということに軽い衝撃を受けた。ほかには「そして、ねずみ女房は星を見た」の表紙がいいと何度もなでながら言った。ひとしきり本を見た後に席を立って、「これもいいなぁ」と言いながらお店の本棚からとった本は「いぬがほしいよ!」という絵本だった。「加えてほしい本とかあれば教えて」と聞くと、「弔いについて書いた本があれば」と言われた。弔い…。わたしが選んでいる本と瀬尾さんがいう本は違うものではないか。その意味で瀬尾さんはわたしが思っているような「本」は読まないだけで、違う「本」はたくさん読んでいるのではないかと思いあたった。
このときの時間は選書を完成させる上でたいへん大事な時間になった。また個人的にも「本とはなにか?」をあらためて考える時間をもたらしてくれた。わたしは最初に選んだ本をほとんどやめて、一から選書することにしてそのためにいくつかの基準をつくってみた。
*威圧感のない本
*個人誌、日記、手紙、手記をくわえる
*無名の人、これまで知られる機会の少ない声を大切にする
*読む人ががんばらなくて読めるもの
*今生きている「だれか」の生活と密接な本
*系統だったセレクトではなく小さくバラバラなものが集まっているイメージ
*既存のジャンル分けにこだわらない
こうしたことを考えていると、本棚を見る眼が変化するのを感じた。わたしは夢中になって、図書館へ行き、本屋へ通い、定価で本を書いまくった。仕事だと忘れるくらい夢中になった。たぶん、瀬尾さんと小森さんはそこまで求めていなかったのかもしれないけど。
最初に話していたときの感じでは展示する本は20冊くらいのイメージだったようだ。結果は70冊近くになった。本は存在そのものが「意味」なので、冊数が少ないと一冊が発する意味が大きくなってしまう。多様な意味を持たせるためにはある程度冊数が多い方がいいと思った。
1ヶ月くらい経って、もう一度本を見に来ていただいた。今度は迷っている気持ちはなく、見て見てーという気分だった。集まった本にはどことなく傾向ができていて、これをカテゴリー別に分けてみることにした。すると、以下の六つができあがった。
【コロナ禍生活/旅】
【災禍/営み】
【ケア/家族】
【動植物】
【詩・語り】
【こども】
/が入っているものは、と表記してもいい。相互に反転するイメージで、ネガとポジの関係として捉えられている。例えば、コロナ禍生活では旅への希求もまた高 まるだろうというように。災禍は営みを破壊するものでありながら、その存在を照らすものであるし、ケアと家族も切ってもきれないものだと思う。
瀬尾さんと小森さんとの対話の中で生まれたカテゴリーとその本は、本の中身の優劣やベストな選書であるかはあまり問わない。たまたま2020年の今、二人の言葉からわたしが見知った本を選んだものなので、1ヶ月後にはまた変わりそうな気がする。
完成したコロなか文庫のリストを送ると、瀬尾さんと小森さんに喜んでいただけたようでひとまずほっとしている。そして、「わたしもちょっと選びました」と本を10冊持ってきてくれた。瀬尾さんの選んだ本を見て、やっぱり瀬尾さんは「本を読んでいた」と思った。コロなか文庫に二人の選書も加わって、ほんとうに本で対話をした気分だ。
前野久美子(book cafe 火星の庭)
★展覧会「ことばのいばしょ」フライヤーを火星の庭でも配布中です。
「ことばのいばしょ」展
2020.08.23
アーティストの瀬尾夏美さんと小森はるかさんが参加されている「ことばのいばしょ」展が札幌文化芸術交流センターSCARTSで始まりました。
「ことばのいばしょ」展は<「言葉」を作品のモティーフや手法とした同時代の表現を紹介する展覧会>。
詩、短歌、アニメーション、ドキュメンタリー映像、版画などさまざまな手法で言葉の「居場所」をテーマにした作品が展示されています。
今回、瀬尾さんと小森さんにご依頼いただき、お二人の作品の展示会場に置く本の選書をいたしました。
ご来場された方が気の向くままに本を手に取って、そこにある言葉に触れていただけたら幸いです。
8/23(日)には瀬尾さんと小森さんによるトークとワークショップがひらかれます。
「対話の場をゆたかにする本」というのが、ご依頼の趣旨でしたが、展覧会に展示する本を選ぶというのは初めてのことで、悩みましたがとても貴重な経験になりました。
こういう時期ではありますが、もし札幌に行かれることがありましたら、お立ち寄りください。
札幌の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
「ことばのいばしょ」公式サイトはこちら
https://sapporo-community-plaza.jp/event_placesofwords.html
瀬尾さんの作品の展示会場、「コロなか対話の広場」。
新型コロナウイルス感染症の流行下で描かれた「コロなか天使」の原画が展示されています。
作品を飾る「額」も手作り。シェルターのようにも見えます。
この会場の一角にある「コロなか文庫」を火星の庭が選書しております。
もう一つの会場では、お二人が続けてきた対話の場の実践風景を映像作品にして公開しています
。作品名は「みえる世界がちいさくなった」。
70冊の選書リストとエッセイ「コロなか文庫ができるまで」が掲載された冊子が会場に置いてあります。
ぜひお手に取ってご覧ください。
言葉と本の、新しい出会いがありますことを願っております。