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ユリイカ展舞台裏 vol.1「田中さんとの出会い」 2005.09.12  


 2004年秋のある日の夕暮れ、お店によくいらっしゃる年上の女性の方が
「こういうのあるの知ってる?」と言って小さな冊子を見せてくれた。「書
肆ユリイカの本」というタイトルで著者は半年前に銀花という雑誌の取材の
ために来店した田中栞さんだった。その名前を見たとたんあの印象的な取材
を思い出した。
 はじまりは「季刊銀花で女性が店主の古本屋を取材することになり、火星
の庭さんを青山の日月堂さんにご紹介していただき・・・」という電話。季
刊銀花があこがれの雑誌なら、日月堂さんもあこがれの古書店。うれしく
なって会話をしていると、「明日取材に行きます」という。翌日田中さんは
横浜から朝一番の新幹線に乗って火星の庭へやって来た。取材が始まるのか
な、と思うと挨拶もそこそこに本棚を見ている。「お仕事の邪魔はしません
から、聞きたいことがあるときにお声をかけます」と言う。舐めるように棚
を見て、ときどきノートにメモしたり、絵を描いたりしている。質問もされ
るが、「うわっおいしそう。この料理はなんですか」「タコライスといいま
す」「お子さんがいらっしゃるんですかー」「来月で1才です」「だんだん
楽になりますよ」「そうですかねー」……。取材というと一問一答、畳み掛
けるように会話してお互い「フゥーーー」となってさようなら、というパ
ターンしか経験してこなかったので、田中さんのリラックスした雰囲気にい
つの間にか取材ということをすっかり忘れて、聞かれてもいないことをべら
べら話してしまっていた。田中さんは全国の古本屋をまわっていて、旅行や
取材で訪れたほかの女性店主の古本屋の写真を見せてくれながら、生き生き
と古本屋についての話をされた。
 そして田中さんは本を数冊買い求め、7時間後に火星の庭を去った。仙台
市内の古本屋を回って今日中に帰宅するために。ほんとうに変な取材だった。
しかし出来上がった原稿は火星の庭がどんなお店なのか、どうしてできたの
かがとてもわかりやすく魅力的に描かれていた。プロの漫画家並みのイラス
トも楽しい。後から想いおこすと会話のはしばしに「出版学会の集まりで…」
「東京製本倶楽部で一緒の方が…」という言葉がひんぱんに登場し、実は取
材すべきなのは私の方だったのではないか!と悔やんだ。それから半年の月
日が流れ、田中さんの言った通り、育児もいくらか楽になってきたころ、冒
頭のシーンがやってきた。その冊子「書肆ユリイカの本」を持ってきてくれ
たのが10/8(土)に女の古本談義に出演することになる岡田とも子さんなの
だった。
(つづく)

10/1から田中栞コレクション「書肆ユリイカの本」展を火星の庭で開催しま
す。田中さんが来仙して装丁&製本講座と座談会を開きます。
くわしくはこちら。

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