火星の庭で、新しい試みを始めさせていただけることになりました。
題して「夜の文学散歩」。
   
仙台在住の作家・佐伯一麦さんを案内役に、
毎回一つの作品を読み解き、作者のつくりだす世界を味わいます。
文学を読む愉しみから、創作への入り口まで、
寄り道をしながらさまざまな文学を散歩してみませんか。
お酒とおつまみのあるテーブルを佐伯さんと囲んで、
自由な雰囲気で文学を語り合える場です。
小説が好きな方ならどなたでもご参加いただけます。

               ◆

「夜の文学散歩」第一回
  今回の課題図書:『バベットの晩餐会』(ちくま文庫)
           イサク・ディーネセン 桝田啓介/訳
  *当日までに課題図書を読んでからご参加いただくようになります。

  2009年10月4日(日)19:00〜21:30
  場所:book cafe 火星の庭
  参加費:3000円(ドリンク+軽食つき)
  定員:10名(お申し込み受付順)

  *定員となりました。
               ◆

      ☆ 課題図書 紹介 『バベットの晩餐会』☆
       
デンマークの作家ディーネセン作。<芸術家が次善のもので喝采を受け
るのは恐ろしいことなのです>という主人公の科白に、芸術とはかくあ
るもの、と再読するたびに共感させられる。同名の映画も、深い余韻の
残る佳品。
                     〜佐伯一麦さんより〜



 〜 以下は終了後のご報告
   2009.10.7の『庭番便り』から 〜

    

 10月4日。十六夜。文章を書く技術があるように、本を読む技術があ
るはず。読む技術を磨けば、本の愉しさが果てしなく広がりそう。
 そう思って文学を読む読書会をはじめました。

 佐伯一麦さんは現代日本の文学の世界で、第一線でご活躍されている
小説家ですが、卓越した「読みの眼」を持つ作家としても知られていま
す。仙台にお住まいなことを幸いに、佐伯さんをご案内役とする読書会
をつくりたいとお願いして、この日が一回目となりました。

 会では佐伯さんが選んだ課題図書を前もって読み、共通の読書体験か
ら感じたこと、疑問に思ったこと、さまざまな思いを聞き、語り合いま
した。大いに食べ、ビールを飲みながら。

 今回の課題図書はこちら。
      
      『バベットの晩餐会』(ちくま文庫)
       イサク・ディーネセン 桝田啓介/訳

 ノルウェーの奥地が舞台のこの作品。寒村に住む敬虔なクリスチャンの
美しい姉妹。ある嵐の夜、静かな村に突然やってきた謎の女、バベット。
姉妹の家で家政婦として働くことになるが…。

               ◆

 まず佐伯さんがなぜこの本を選んだのかを語る。「文学というのは総合
芸術で、小説だけ読んでいればいいというものではない。『バベットの晩
餐会』には、料理、音楽、聖書からの引用、パリコミューンなど、様々な
ことがでてきて、幾通りにも読み深められる、ほぼ完璧な物語といえると
思います」
    

 参加者は20代から60代までの男女11名と東京から荻原魚雷さんも参加
してくれました。職業もさまざまです。しかし読書の感想に男女、年齢差
はそれほど関係がない、というのがわかりました。

 「バベットはキリストにも、魔女にも思える」
 「バベットが全財産をかけて目も眩むようなご馳走を姉妹と村人につく
 って、それをすべて自分のため、というのがわからない」
 「バベットの最後の告白にひかれた」
 「姉妹の人生の可能性を狭くするような行動がじれったい」
 「当たった宝くじは現在にするとどのくらいなのか」
 「バベットが宝くじを買うように見えない」
 「女性達が魅力的なことにくらべて、男性がいまいち」

 などなど、本質的なことから俗っぽいものまで、活発な意見が飛び交
 いました。
 「あまりピンとこなかったし、どちらかというと好きな小説じゃない」
という意見も。
 すると佐伯さん。「わかりやすいことや好きになることだけが読書と
はいえない。むずかしいからダメではなくて、わからないことも大切で、
それがある日ふと、わかるときがきたりする。私もはじめて「バベット
の晩餐会」を読んだときはあまりピンと来なかった。それが今読むとと
てもよくわかる。バベットの最後の言葉はいつも頭にあります。」

<芸術家が次善のもので喝采を受けるのは、恐ろしいことなのです。>

 
 私の読後感は、姉妹とバベット、どちらが人として幸せな生き方なの
だろうか。精神の純度を保つことは果てしなく孤独で険しいと思った。

 ひと通り感想が出されると、佐伯さんが実作者ならではの目線で、こ
の物語がたいへん周到に構成され、あちこちに読む愉しさが散りばめら
れていること。作者の意図がもっとも効果的に読者に伝わるように計算
されていることをディテイルを紹介しながら解説してくれました。
 「バベットの晩餐会」は映画にもなったので、映画の表現と小説の表
現の違いにも触れました。「細かい心理描写は小説の方が向いていると
いえる」という言葉が印象的でした。映像だとつい観ることでわかった
気になる、イメージが限定されてしまうということがあると。

 正直、文庫本でわずか90ページの作品にこれほどの発見と魅力がある
とは、一人で読んだときにはわからなかった。「読みの眼」、もっと鍛
えたくなります。

               ◆

 読書会本編は2時間で終了。その後フリートーク。日本酒、ワインが
驚く速さで空になっていきます。「麦刈新聞」発行者のAさんが最新号
を持ってきてくれた。佐伯さんの日々の仕事を収集した貴重な情報誌。
「ぼくもわからなくなるとAさんに聞くの」と佐伯さんが笑った。
 60代のOさんは「ぼくは庄野潤三をリアルタイムで読んできたけれど、
佐伯さんのような僕より若い作家が、なぜ私小説を書くのか興味があり
ます」と聞いていた。
 会の途中でKさんが遅刻して到着。なかなか座らないのでどうしたか
と思うと、「本を読んでない」と。佐伯さんがニヤリ。「これで賭けに
勝った」と。Kさんが課題図書を読んでくるかこないか、奥様と賭けた
そう。「1000円ね」。Kさんは佐伯さんの文章講座にも通っていた旧知
の人。その講座でも一度も課題を読んできたことがなかった。一同大笑
い。Kさんも照れ笑い。ムードメイカーのKさんの登場で、場がヒートア
ップし、最後は賑やかな、それに比例して本の話題も少なくなっていっ
た読書会でした。本の話ばかりよりはね、いいのではないかと。

 この日の献立。笹かまぼこのチーズ焼き、板かまぼこの明太子はさみ、
むかご、プチトマト、枝豆、栗、生ハムとピクルス、舞茸と椎茸のオリ
ーブ炒め、小アジの南蛮漬け、真鯵のマリネ、全粒パン、エビスビール、
シャンパン、ワイン、日本酒、ウィスキー、アイスティー。軽食といい
ながら、がっちり料理を作ってしまいました。

               ◆

 次回は年明けを予定しています。決まりましたらここでご案内します。
今回満員で参加をお断りした方々もいらっしゃいますので、次回は改善
策を考えたいと思います。



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 OPEN/11:00〜19:00
 定休日/毎週火曜・水曜
 E-mail  kasei@cafe.email.ne.jp
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